バルサミコ酢の移し替え作業

一年に一番寒い時期に、1番小さな樽から最終製品を取り出し、それから数ヶ月後本格的な春の訪れの前、酢酸菌が目覚め始めるころ、私たちは移し替えの作業を行います。

真冬の間は、醸造室は静か香りも穏やか。少しずつ気温が上がり始めると香りが立ち始める。面白いもので、あ、起きてきたなと感じます。それは庭のマーガレットヤ、オオイヌノフグリが咲き始める頃と同時期。やっぱりお酢も生きているんですね。

バルサミコ酢を醸造するにあたり、1番独特な作業がこの移し替え作業ではないかと思います。バルサミコ酢を伝統的な製法で熟成させるには、寒暖の差が激しい屋根裏部屋に置く必要があり、夏は酢酸菌が活発に働き、寒い冬の間は酢酸菌は働かず、休眠状態にさせることが不可欠です。なぜなら寒い冬の間に、澱が樽の下に沈み、光沢と輝くような褐色の液体へとさせるため。

そんな時期を寒い過ごしたバルサミコ酢は、春、酢酸菌が目覚める頃、大きい樽から小さい樽へ順繰りに、バルサミコ酢を移し替える作業を行います。

最低でも大小容量の異なる5-9個の樽が一式とし、一定期間の熟成後、1年に1度移し替え作業を行います。小さい方の樽に隣の樽から蒸発した液体分を補充します。

私たちの醸造室の樽は大小、大きさの異なる5つの樽を1セットとして構成されており、樽の上部に開いたコキューメという蓋の部分からは勿論、樽壁に染み込み、外に蒸発する年間の量は10-20%と気候に左右されやすく、毎年一定ではありません。この移し替え作業を経て、12年経った時点からバルサミコ酢を採取できるようになります。その量は最小樽の8%以下が望ましく10Lの樽からは800mlも採れないのです。ざっと計算して、我が家の13年熟成のバルサミコ酢、100mlの中に使った葡萄は2Kg。しかも13年、13回の葡萄の収穫がゆっくりととても長い時間発酵13年の醸造作業の積み重ねと、時間の経過の間に木樽に入ったバルサミコ酢はゆっくりと時間をかけて濃縮し、粘度が増し、木材と酵母と酢酸菌の複雑な相互作用により芳香が増します。もちろん、セットの5つの樽の中身は1番大きいものは1番新しい成分が異なり、香りも、粘性も味も全て異なります。移し替え作業をすることによって、樽が小さくなるごとに熟成が進んでいくのです。

ワインの製造では樽にワインを入れて蓋をして、熟成を行い、樽は数年で廃棄されますが、バルサミコ酢は毎年、樽の手入れを怠ることなく移し替え作業を繰り返し、50年、100年と使い続けることによって、芳香が高まり、価値が上がるのです。言ってみれば、樽無くしてバルサミコ酢はできません。

ワインは瓶詰めをして時間が経てば経つほどと価値が上がるものがありますが、バルサミコ酢は樽の中だけで熟成します。何故なら毎年の移し替え作業があってこそ酢酸菌、と酸素との働き、葡萄や樽の木に含まれるフェノール類の重合作用など熟成に必要な様々な要素が複雑に絡まり合い熟成が起こるためなのです。揮発性の酢酸菌は長い長い熟成の中で量が減っていきますが、有機酸がどんどん増えていきます。そのため空気の流れが生まれない瓶の中では熟成は止まります。

そのかわり瓶の中では瓶詰めされた品質の状態が保たれます。科学検査を行った結果、完全に密封された容器の中では50年以上経ったものでもその品質に変化はなかったと言う報告があるほど。本当に長い期間熟成されたバルサミコ酢には賞味期限は必要がない。と言うのが醸造家の共通した意見ですが、市場に出す場合法律で賞味期限の表示が義務付けられていますので、一般に伝統的な製法で作られるバルサミコ酢には10年の賞味期限を表示する事になっています。

さて、今年も移し替え作業を主人と2人しました。こんな手作業なの!と思われるかもしれませんが、そうなんです。樽の中の上下の状態が違うバルサミコ酢をかき混ぜすぎないようにやるには電動ポンプなどを使えませんし、取り出す液面の高さは樽の大体真ん中あたりから。補充する液面の高さは指の高さなど小さな蓋の部分から微調整を行うにはこの方法が1番。動画を作りましたので、ぜひ覗いてみてください。

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