ワインビネガーとバルサミコ酢は両方ぶどうから作ったお酢。

その違いは何かと言ったら糖分を残すか残さないかその違いがある。

ワインビネガーはその名の通りワインから作るお酢。

ぶどうの汁をアルコール発酵をさせてワインにしたものを、酸素と酢酸菌の働きで酢酸発酵が起こり、数ヶ月から1年ほどで出来上がる。

一方バルサミコ酢は葡萄の汁を煮詰める。と言う独特な作業があって、その葡萄液を煮詰めた汁の糖分の半分をアルコール発酵させて、酢酸発酵を樽の中で何年、何十年もかけてゆっくりと行うと言う違いがある。

その昔、葡萄は貴重なもの。バルサミコ酢はその貴重な葡萄を煮詰め、何年も熟成させられる財力がある王侯貴族など裕福な階層の人にしかできない特権で、一般庶民には見たこともないようなお酢だった。今でもバルサミコ酢造りは、モデナ人のステータスシンボルであることに変わりはない。

モデナを治めていたエステンセ公爵、その昔ドゥカーレ宮の塔の中に立派な醸造室を持っていた

ワインビネガーの話に戻る。裕福層の家庭においてもワインビネガーは必需品。我が家だって、バルサミコ酢を醸造しているけれど、普段の食卓にはワインビネガーを主に使う。日本にいる頃は、刺すような酸味のお酢と言う印象で、ワインビネガーが美味しいと思ったことが正直なかった。

開眼したのは自家製のワインビネガーを食べてから。うちに見学にいらっしゃる皆さんも「え、こんなにワインビネガーって香りが良くて、美味しかったっけ?!」とおっしゃる。

日本市場に出回っている葡萄酢をはじめとする果実酢の農林水産省が提唱している基準値を見て驚いたことがある。「醸造酢1Lにつき果実の搾汁として300g以上であるものをいう。 」え?70%は何が入っているの?!っと言う疑問である。うーむ

そりゃあ葡萄果汁100%でワインを作って、1年以上酢酸発酵をさせて作ったワインビネガーが美味しく感じる訳である。

古代ローマ時代はモデナは良質のワインビネガーの産地として有名で、モデナの酢と言う呼び名があったとか。ローマ軍の進軍にエネルギードリンクとして、水、酢、モストコット(葡萄のシロップ)を混ぜたものを飲ませていたり、古代の料理書の中にはとワインビネガーとモストコット、魚醤を混ぜて作るソースの話。保存食を作るための防腐剤の役目、清掃をするときなどに殺菌剤として使っていたりその用途は多岐にわたってていた。ペストが流行した時も、病人のいる部屋を酢で拭き清めること。なんて言う記述もある。

私たちも醸造室にワインビネガーは不可欠。

樽の清掃には、洗剤などは一切使えないから、ワインビネガーで樽の周りを清掃している。カビが生えるのを防止し、殺菌もできる上、醸造室の空気中に酢酸菌が増える。願ったり叶ったりというわけ。

樽の掃除中

新しい樽を使えるようにするにも、このワインビネガーを1年間樽の中に入れて置いて、余分なタンニンを取り出したり、木樽の中に酢酸菌を植え付ける目的。そんなわけで、ワインビネガーは何百L単位で醸造室に保管してあるのである。

秋にモストコットを作る時に、葡萄の果汁の一番搾りの良い部分はバルサミコ酢にとってから、残りを搾り取ったらワイン醸造タンクに入れてワインにしてしまう。春先になったら、ワインになった液体を醸造室の300Lのワインビネガー用の大樽に全て入れて、ワインビネガーにしている。

もったいない!と思われるかもしれないが、香りはいいけれど、飲むには酸味が強すぎる感があるので、少々料理に使うくらい。しかしワインビネガーにはとても向いている。バルサミコ酢もワインビネガーもどちらも発酵食品で、どちらにも捨てがたい魅力があるのである。このワインビネガーファンの友人に懇願されて分けることもあるけれど、今のところ商品化はしていない。というのも、ワインを継ぎ足し継ぎ足しで作っているので、発酵が常に行われているような状態で、瓶に移し替えても無濾過、無添加だと発酵が進み、澱がたまったり味が変化したり製品として安定していないから、研究が必要なのである。

今回ガラス製の大瓶で実験してみます。

樽で何年も続けて保存しているから白ワインを使って作っても黒くなる。何年も樽の中でミックスされて熟成されているから、味の深みが増したワインビネガーなのだけど、これをじゃぶじゃぶ樽の拭き清めに使っている。ワインビネガーで清掃した樽は外側もいい香り。

うちのワインビネガーファンの友人たちが知ったら、もったいなーいと騒がれそうだけれど、バルサミコ酢醸造というのは、そう言うところからして贅沢の極みなのかもしれない。

今週の動画はワインビネガーを作る動画を夫婦でご紹介します。

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