ずいぶん前からジュニパーベリーの樽が欲しかった。鑑定会でもジュニパーベリーの樽で熟成させたものと、一発でわかる独特の香りがして、好き嫌いが分かれる。特に、10年程度の熟成では松脂を舐めているような強烈な香りと味で、お世辞にも美味しいとは言えない。
が、20〜30年以上経ったものはなかなか良いのである。お料理を選ぶとポテンシャルが発揮されるような感じ。
我が家の通常の樽のセットは5つで構成されていて、桑、オーク、栗、桜、アカシアで構成しているが、そのセットに入れないジュニパーベリーの大きめの樽が欲しいと思っていた。
ただ、ご存知のように、低木なので、樽ができるような大きなジュニパーベリーの材木はなかなか樽屋でも手に入らないし、あっても大変な高額になる。

そんなわけで、醸造家の中にはジュニパーベリーの木片を樽の中に入れる人や、側と呼ばれる周りの板の一部や、底板だけにジュニパーベリーを混ぜるという話も聞いたことがあった。が、私たちが欲しいのは樽まるごと。そんなある日、ひょんな事から知り合った人が、トスカーナ州とエミリアロマーニャ州の県境の山の中に家を建てることになり、敷地内に生えていたかなり大きなジュニパーベリーの木を何本か施工にあたり一年前に切った話を聞いた。これは!と聞くと、ほとんど原生林状態だったため、農薬や、殺虫剤の散布は全くなかった山の中で、切り出した後何かに使えるのではないかと、倉庫にとってあるいうのである。早速交渉して、引き取りに。
とはいえ保管中の虫食いの有無、大きさ的に樽にできるのか?使える状態なのか判断がつかないので、樽屋の友達トーマス君のところへ搬入。
トーマス君はもでな界隈でも若い樽屋さん。お母さん方のおじいさんの跡を継いで、この道に入った。
雑誌イタリア好きの取材にも快く応じてくれたり、A級鑑定士の資格試験の同期合格だったりと縁がある。見てもらうと、切り出して、また伸縮があるだろうから、ゆっくり乾燥させなくてはいけないから、時間がかかるよ。と急がないからとコロナの影響もあって早2年経過。やっとできてきたと去年の年末に連絡があった。
大きさは30Lの樽である。
車で運んで帰ってきただけで、車の中がむせかえるような香りが充満した。
早速樽を使えるようにしなくてはならない。まずは木屑や埃を掃除機で吸い取って、そこへグラグラ沸かした熱湯と7%の食塩を入れ、樽の中の殺菌、木の余分なタンニンを取り出すのが目的。通常3日ほどで良いのだけれど、木の香りが強いので、4日置く。まるでヒノキのお風呂に入っているか、アロマオイルを炊いているかのような凄まじい香り。
その間、樽がもれないか、チェックをしていく。そこで木材と木材のつなぎ目から漏れるのはタガを閉めれば、大して問題ではないけれど、ひびなどは水分が染み出してくるとタガを絞めてもダメなので、この数日でチェックが必要。4日で、20%くらい木に水分が吸収され、食塩水の色もすっかり真っ黒。そんな水を抜いて今度は3日ほど逆さにして乾かしていく。あまり乾かしすぎてもタガが緩むのでそこそこに。
醸造室に運び込み、いっぱいまで、酸度が強いワインビネガーを口いっぱいまで入れて、蓋をして通常1年置いて酢酸菌を植え付けていく。が、今回は癖が強すぎるので、2年置いてみようと思う。最終的にバルサミコ酢を入れて熟成して、自分が納得いく味になるのは20年以上はかかりそうだ。
多分ジビエ料理に抜群に合うだろうなと樽をくんくん嗅ぎながら、まだできぬバルサミコ酢に思いを馳せる。死ぬまでにできたら良いやね。と考えさせるバルサミコ酢は、時空まで超える究極の趣味なのである。
樽を使えるようにする作業動画にしました。
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