年が明けてからモデナにあるエノロジカモデネーゼエノロジカモデネーゼという樽屋を訪ねた。
樽職人さんミゼッリさんとの出会いである。
子供の頃からお父さんの仕事を見て覚えたという、今では数少ない叩き上げの職人さんだ。70代というところか?バルサミコ酢の醸造について細かく、しかも科学的に教えてくれた。それだけではない、バルサミコ酢に傾ける情熱をも伝染させてくれたのである。
図を書きながら、説明してくれた。すると

「貴方は生物学とか、微生物学を勉強したことがあるでしょう。」というのである。
「わかりますか?大学では微生物学もやりましたけど、専門は栄養学や、食品化学を勉強しました。」
というと、
「話にちゃんとついてきてるものそりゃわかるよ。貴方もっと知りたかったら、スピランベルト市にあるバルサミコ酢愛好者協会の主催する講習会に参加すると良い。残念ながら今年は講習会は始まっているから来年にでも是非参加しなさい。」という。
「貴方たち商売としてバルサミコ酢を作るのかい?早く稼ぎたいと思って始めるのかい?」
とよくわからないことを言うのである。
マックスが
「我が家には先祖代々伝わる樽があって、出来るだけ、伝統的な製法にのっとって、良いものを私たち夫婦の趣味で作りたいと思っている。本当に良いものは100年かかるでしょう。」と答えると
「人任せでなく、自分たちで作るんだね。」
満足そうに頷いて、
「それならば、新しい樽を買ったら、ゆっくりワインビネガーを樽に入れておきなさい。そしてそのうちにこちらのお嬢さんはしっかり勉強すると良い。」
と、まずは一度醸造室の場所を見にきてくれることになった。
早速次の日にミゼッリさんは我が家にやってきた。
まず、漏れのある家宝の樽の状態を見てもらい、修理が必要があるという。手で愛おしそうに樽の全体を触り
「こんな樽はおそらくまだ子供の頃、僕のお爺さんが仕事していた頃に見たことがあるくらいのものだよ。見てみなさい、このタガは鍛冶屋が一つづつ、手で打ったもので、こんな鉄のタガは今はないよ。こういう作り方をしたものは、錆も出ない。今ではこういうものは作れないんだよ。これは1800年代の前半いや、もっと前のものかもしれない。中が二重になっているから、中の樽は一体何年経ったものかわからないくらいだよ。ともかく大事にしなさいこれは歴史の遺産だから」と舅やマックスにではなく、私にしみじみ言った。

これから新しく醸造室と思っているスペースを見てもらうと、
「これは良い醸造室になる。楽しみだ。この醸造室を見てあなたたちが伝統的なものにこだわる理由もよくわかったし、趣味で急がずに良いものを作りたいというのがわかったよ。良い樽を揃えさせてもらうよ。」と言い残して帰っていった。
続きます。
バルサミコ酢造りを動画で紹介しています。