14年伝統的な製法でバルサミコ酢を造ってきて、強く思ってきた事は

「バルサミコ酢を売ること」ではなく、

「バルサミコ酢を知ってもらうこと」でした。

伝統的製法で作られるバルサミコ酢は、大変な手間と時間ががかかります。もちろん売るとすれば、ものすごく値が張り、そんなに流通する量がない。そんなわけですから、一般に市場に流れているバルサミコ酢との違いを知る人はほとんどいない事がとても歯痒くて、特に母国の日本にどうやったらこの素晴らしい、バルサミコ酢を知ってもらえるか考えていました。一番簡単な方法は販売する事ですが、我が家の家宝級の樽から取れるのは数リットル、若い樽はまだまだ熟成中。醸造しているのにもかかわらず、売るほどの量がないわけです。

これは全て伝統的製法のバルサミコ酢ではありません!

そうとすれば、講習会などを企画して、少量でも口にしてもらう事ですが、無名無経験ではそんな企画もできない。

そして醸造をするには歴史的背景を知り、良いものを作りたければ伝統的な製法を踏襲するだけでなく、科学的理論を知る必要がある。そのためにバルサミコ酢の鑑定士の理論講習を受ける必要がありました。

 12回の理論講習を受けたあと、A級鑑定士になるためには、年間60種類以上の鑑定をするために、鑑定会に参加しなくてはなりません。この資格はバルサミコ酢愛好者協会という、1967年に発足した非営利団体が主催しているもので、最短でも6年とバルサミコ酢の醸造並みに時間のかかる資格です。私は出産や子育て、家族の病気などで一時期お休みしていたこともあり、足掛け11年、2019年の10月バルサミコ酢A級鑑定士の試験受験資格を得て、11月に合格したのでした。もちろんモデナに住んでいなければ、到底受験すら不可能な資格であるため、私が日本人で初めてそして2021年の今の段階で唯一のA級鑑定士です。

この鑑定士の世界、モデナ人であることはもちろんのこと、年齢が高めの男性が多いため、外国人で女性というのは部屋に入った瞬間、ジロジロみられることはもちろん、好意的な方もたくさんいましたけれど、中には「何で東洋人のお前がここに座っているのか?バルサミコ酢のことも他のもの同様、盗んでコピーする気だな」

と面と向かって言われたことも一度だけではありません。

「モデナに嫁に来まして、婚家代々伝わる樽があるので、それを守るために鑑定会に勉強に来させて頂いているんですよ。貴方のお子さん方やお嫁さん、葡萄畑の管理や、モストコット作り、その他のバルサミコ酢のお手伝いなさいます?」

とにっこり笑ってお返ししたものでした。

鑑定会の様子ここに日本人が入るのは相当目立ちます。

そういう空間ですから、全てにおいて閉鎖的。もっとイタリア国内はもちろん外国にもアピールすべきだと思います。と会長に申し上げたら、非営利団体だから予算がないからなかなかね。ととっても戸惑ったお返事。私みたいな外国人会員は他にもいるのだから、喜んでお手伝いしますからといってもなかなか行動を起こす感じではない。

なんだか全てにおいて歯痒い。

もうこれはできることから始めようと2015年頃から手始めにソーシャルネットワークを使って、少しづつでもアピールを始めると、細々とですが見学させて下さい。という方がちらほら我が家に遊びに来てくださるようになりました。

そんな頃イタリア好き Web通信

にコラムを書かせていただくようになったのがきっかけで、の取材コーディネイターのお話を松本編集長さんからいただきました。そこで提案させて頂いたのは我が家の醸造室を始め、鑑定会の様子や、会長に紹介してお話をしていただレストランを併設した醸造所の紹介、その他モデナでこだわりの食材を生産している生産者などリストを作りました。取材前はコーディネーターのあかねさんのところは紙面に載せるかわからないので、そのつもりでいて下さいくださいね。と。コーディネーターとして伝統的な製法のバルサミコ酢が紹介できたらというのが私の提案で、それ以外のところは当然私の判断するところではないですし、市場に出回らないようなバルサミコ酢をご紹介するというのが私の提案ですから、一切お気になさらないでください。とメールのやりとりをしていましたが、最終的に紙面に載せていただくことに。その上、翌年ツアーで回っていただくというご縁まで!

デジタル版はこちらから

イタリア好き Vol.36 エミリアロマーニャ特集

面白いもので、次々ご縁が繋がり、モデナに遊びに来てくださった方々が、日本のレストランでの勉強会や、大学での講義、バルサミコ酢の講習会を依頼してくださるようになりました。

中でも自然料理アカデミーを主催する石川明子さんとの講習会は人とのつながりを実感する素敵な会となりました。

製造法をスライドで説明して、実際の試飲鑑定、バルサミコ酢を使ったお料理をお出しして、皆さんから沢山の質問があった中一番多かったのが、これからどんなバルサミコ酢を買ったら良いですか?というもの。

が、生産者なのに味見をするものがあっても売るものがない。と普通は理解に苦しむような状態。どこのメーカーを買ったら良いですか?と言われてもあまりにも生産数量が少ないため、日本の市場に出回っておらず、ネットで調べてもヒットしないというないないづくし。

講習会に参加してくださった皆さんとの集合写真

もう少し待ってて下さいという言葉を残し、早いもので2年以上。やっと日本に少量ですが届けることができました。

 先日予約販売を告知すると、早速注文をしましたという嬉しいメッセージ。ソーシャルネットワークでずっとみてきてくださった方、イタリア好きの読者の方、講習会に来てくださった方、モデナまで見に来てくださったという方。人と繋がっている実感が薄れてきているコロナ禍の中、本当に本当に嬉しくて。

今年は叶いませんでしたが、売り場に立ってて渡したかった!

年を追うごとに良いものを造れるよう、努力していきたいと思います。

発送は2月の21日との事ですので、今しばらくお待ちくださいませ。

購入をご希望の方はda Romaのオンラインショップ

もしくは21日から伊勢丹新宿店にも並ぶそうですのでよろしくお願いいたします。

今週の動画は、私がいつも講習会でお話しさせて頂いている、バルサミコ酢と名のつく製品の味の違いを鑑定しながらお話しします。

イタリア バルサミコ酢醸造をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む