バルサミコ酢造りに欠かせない、母なる樽

春の作業、モストコットの濾過作業を先日終わらせたけれど、作業は終りではなく、

『始まり』

ろ過したモストコットは秋からゆっくりとアルコール発酵しており,

液体の糖分グルコースがアルコールに変わっている。糖分が28Babo14Baboになっていたので、生成したアルコール度数は約8度。

このアルコールに酸素と酢酸菌が働くと、酢酸が生成される。8度のアルコールからは約8度の酢酸ができる計算になる。

10年以上も年数が経てば酢酸菌は揮発性なので、減少することを考えると、熟成の樽に入れる前にある程度の酸度が必要である。バルサミコ酢は『酢』であるのだから酸味がなくては話にならない。

そんな訳で、そのまず第一段階として、秋に作ったモストコットがしっかりとアルコールを作っていなくてはならない。アルコールができるということは、その発酵の過程で、エステル類をはじめとする香りの素が生まれる。これはワインも同じ原理。モストコットワインと呼んでもいいかもしれない。これを大樽に毎月一回9月、10月まで半年かけて少しづつ入れていく。

昨日はそんな作業の1回目をした。

何故一気に入れられないのか?というと、バルサミコ酢になるためには、製品の特性である甘味の糖分を残してあるため、一気に入れすぎると、お酢に変化せず、酸味のない中途半端な液体が出来上がってしまう。

その味何と言ったらいいか、酸化防止剤の入っているワインを開栓して数ヶ月経った味とでも言えばいいのか、バルサミコ酢とは似ても似つかない味になってしまうので、とってもデリケートな作業。無論長年樽を使っていくことによって、ある程度耐糖性がある酢酸菌ができるらしく、餌を待つ燕の如くモストコットを酢酸発酵して、お酢になってくれている様子。

2020年に作ったモストコットはしっかりと一年この大樽で酢酸発酵をさせて、醸造室の1番大きい樽に入るのは2022年の春。この大樽から醸造室の小さな樽へと移し替えられるので、母なる樽と言われる所以。

この大樽は友人が経営するモンテプルチャーノのサルケートというワイナリーから譲り受けたもの

毎年移し替えてミックスされた一部が1番小さい樽に入るのは2026年というわけだから、本当に途方もないお酢なのである。

バルサミコ酢造りに関する色々な動画の紹介はこちらから

樽の移し替え作業

バルサミコ酢の移し替え作業

一年に一番寒い時期に、1番小さな樽から最終製品を取り出し、それから数ヶ月後本格的な春の訪れの前、酢酸菌が目覚め始めるころ、私たちは移し替えの作業を行います。

真冬の間は、醸造室は静か香りも穏やか。少しずつ気温が上がり始めると香りが立ち始める。面白いもので、あ、起きてきたなと感じます。それは庭のマーガレットヤ、オオイヌノフグリが咲き始める頃と同時期。やっぱりお酢も生きているんですね。

バルサミコ酢を醸造するにあたり、1番独特な作業がこの移し替え作業ではないかと思います。バルサミコ酢を伝統的な製法で熟成させるには、寒暖の差が激しい屋根裏部屋に置く必要があり、夏は酢酸菌が活発に働き、寒い冬の間は酢酸菌は働かず、休眠状態にさせることが不可欠です。なぜなら寒い冬の間に、澱が樽の下に沈み、光沢と輝くような褐色の液体へとさせるため。

そんな時期を寒い過ごしたバルサミコ酢は、春、酢酸菌が目覚める頃、大きい樽から小さい樽へ順繰りに、バルサミコ酢を移し替える作業を行います。

最低でも大小容量の異なる5-9個の樽が一式とし、一定期間の熟成後、1年に1度移し替え作業を行います。小さい方の樽に隣の樽から蒸発した液体分を補充します。

私たちの醸造室の樽は大小、大きさの異なる5つの樽を1セットとして構成されており、樽の上部に開いたコキューメという蓋の部分からは勿論、樽壁に染み込み、外に蒸発する年間の量は10-20%と気候に左右されやすく、毎年一定ではありません。この移し替え作業を経て、12年経った時点からバルサミコ酢を採取できるようになります。その量は最小樽の8%以下が望ましく10Lの樽からは800mlも採れないのです。ざっと計算して、我が家の13年熟成のバルサミコ酢、100mlの中に使った葡萄は2Kg。しかも13年、13回の葡萄の収穫がゆっくりととても長い時間発酵13年の醸造作業の積み重ねと、時間の経過の間に木樽に入ったバルサミコ酢はゆっくりと時間をかけて濃縮し、粘度が増し、木材と酵母と酢酸菌の複雑な相互作用により芳香が増します。もちろん、セットの5つの樽の中身は1番大きいものは1番新しい成分が異なり、香りも、粘性も味も全て異なります。移し替え作業をすることによって、樽が小さくなるごとに熟成が進んでいくのです。

ワインの製造では樽にワインを入れて蓋をして、熟成を行い、樽は数年で廃棄されますが、バルサミコ酢は毎年、樽の手入れを怠ることなく移し替え作業を繰り返し、50年、100年と使い続けることによって、芳香が高まり、価値が上がるのです。言ってみれば、樽無くしてバルサミコ酢はできません。

ワインは瓶詰めをして時間が経てば経つほどと価値が上がるものがありますが、バルサミコ酢は樽の中だけで熟成します。何故なら毎年の移し替え作業があってこそ酢酸菌、と酸素との働き、葡萄や樽の木に含まれるフェノール類の重合作用など熟成に必要な様々な要素が複雑に絡まり合い熟成が起こるためなのです。揮発性の酢酸菌は長い長い熟成の中で量が減っていきますが、有機酸がどんどん増えていきます。そのため空気の流れが生まれない瓶の中では熟成は止まります。

そのかわり瓶の中では瓶詰めされた品質の状態が保たれます。科学検査を行った結果、完全に密封された容器の中では50年以上経ったものでもその品質に変化はなかったと言う報告があるほど。本当に長い期間熟成されたバルサミコ酢には賞味期限は必要がない。と言うのが醸造家の共通した意見ですが、市場に出す場合法律で賞味期限の表示が義務付けられていますので、一般に伝統的な製法で作られるバルサミコ酢には10年の賞味期限を表示する事になっています。

さて、今年も移し替え作業を主人と2人しました。こんな手作業なの!と思われるかもしれませんが、そうなんです。樽の中の上下の状態が違うバルサミコ酢をかき混ぜすぎないようにやるには電動ポンプなどを使えませんし、取り出す液面の高さは樽の大体真ん中あたりから。補充する液面の高さは指の高さなど小さな蓋の部分から微調整を行うにはこの方法が1番。動画を作りましたので、ぜひ覗いてみてください。

YouTobeチャンネルはこちらから

 

 

バルサミコ酢のはじめの一歩、種酢と母なる樽の話

12月に入ってから急に気温が下がって、雪が降りアッペンニン山脈も珍しくクリスマス休暇前にたくさんの雪がと思っていたのも束の間。

どんなに雪が少なくても雪だるまが作りたい、我が家の子供達製

5、6日に気温が上がり、大雨が続き一気に山の雪が溶けて、川が増水。数時間のうちに近所のパナーロ川が決壊。私の住むノナントラの街の多くが床上浸水するような痛ましい災害となってしまいました。

湖のようになってしまった牧草地

幸い、我が家の方まで水は来ませんでしたが、被害に遭われた子供達の同級生のおうちも沢山あり、4日たった今もライフラインが復旧していないところもあるそうで、ただでさえ難しい2020年、なかなかみんなが平穏な気持ちでクリスマスが迎えられないのは、辛い。

本当にお見舞い申し上げます。

バルサミコ酢造りに種酢は必要なのか?という疑問

さて、Akane in balsamicland と名付けて作っているYouTobe動画でバルサミコ酢を科学するという、マニアックなシリーズをアップしているのですが、「アルコール発酵を止める」種酢について質問を頂きました。 興味がある方はこちらから https://youtu.be/cN-bmTYmOa0

何故葡萄の煮詰めた汁モストコットのアルコール発酵を止める必要があるのか?
葡萄のアルコール発酵はワインもそうですが、まず葡萄のグルコースを使います。その後フルクトースの発酵が始まります。バルサミコ酢の甘味はフルクトース集積なので、グルコースが使われた後、種酢を入れてアルコール発酵を止めて、それ以上糖分(フルクトース)がアルコールに変化するのを止めて、甘みを残しています。逆にグルコースを残してしまうと熟成を長くしていくうちに結晶化してしまうので、アルコール発酵をさせます。ちなみに、葡萄のグルコースとフルクトースは約半々で存在しており、フルクトースはグルコースの倍の甘みを感じると言いますが、すっきりとしたキレのある味がフルクトースの特徴です。

実はこの過程が工業的に作られたバルサミコ酢と伝統的な製法で作られたバルサミコ酢の大きな違いで、工業的に作られたものはモストコットを煮詰める段階で、シロップのように煮詰めてしまうため、アルコール発酵が起こらず、甘味の成分も異なってきます。

種酢は?どうやって生まれるのか?

最初にお酢にするにはという事をお話ししたいと思います。バルサミコ酢造りにおいてはまず空の樽に酢酸を植え付ける作業をします。1年間ワインビネガーを入れて、樽の木の気泡に酢酸菌をしっかり行き渡らせ、空にした後、そこにアルコール発酵したモストコットを少しづつ入れてお酢にします。

その樽を母なる樽と呼んで、バルサミコ酢熟成の第一段階であり、この母なる樽の中で、酢酸菌が生き生きとしていないと、熟成させていくにも支障が出ます。甘みがあるというのはすごくお酢に変えるのが難しいので、酸度検査、気温、お酢の状態を観察しながら種酢にするので面白いのですが、モデナ人でバルサミコ酢造りをゼロから初める方は、モストコットアチェティフィカート(モストコットがお酢に変化したもの)を購入するという方が最近増えているようです。もちろん、この母なる樽、定期的に、掃除はもちろん、香りを嗅ぎ、酸度検査し、お手入れをしています。

こんなふうに樽の中でできたのが種酢、いや、軸になるバルサミコ酢造りの第一歩、元酢という考え方の方がわかりやすいかもしれません。なので私たちバルサミコ酢を作るものがボッティマードレ、バデッサと呼ばれる母なる樽を大事にしているのがお分かりになるのではないかと思います。

そんなわけで今回のテーマ種酢は必要か?は種酢が母なる樽の中に作れなければ、バルサミコ酢作りが始まらないというそんなお話でした。

今回の動画は種酢をテーマに母なる樽をご紹介します。

ぶどうから天然酵母起こしてパンを作る

ここ10年ばかり我が家で栽培しているぶどうを使ってモストコットを作る時期に、天然酵母を起こしている。というのもパンに使われる天然酵母は、ぶどうの皮の表面に常在しているサッカロミセスと言う酵母と同種で、ワイン醸造でもバルサミコ酢醸造でも同じ酵母が働いている。
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天然酵母を起こすと言う事は、なんだかとっても難しいように思われているけれど、サッカロミセスを生き物と考えて、育てるために環境を整えて、餌をあげれば元気な酵母がたくさん育ってくれる。

酵母サッカロミセスがついているか、ついていないか見極めるのは簡単。葡萄が白っぽく見えるこれが酵母だ。

酵母は自然界に沢山存在している。先にも書いたけれどサッカロミセスはぶどうの外側に付いているのでぶどうの収穫は雨が降っては収穫できないと言うのもせっかくの酵母が流れて落ちてしまうから。という事は天然酵母を起こすぶどうは洗浄しない。そのためぶどうは農薬や排気ガスをたくさん浴びたようなものはもちろん、使わない方がいいだろう。

我が家の葡萄畑は、Bio栽培で、畑の周りの牧草地もBio栽培、畑の一番近くの道は農道で近隣に民家もない。というそんな環境だから、ぶどうも安心してバルサミコ酢、ワイン、パン作りの酵母に使える。

ワイン作りが盛んになる9月から10月。葡萄畑や、ワイナリーがたくさんあるモデナの田舎では、天然酵母が空気中にものすごく浮遊しているらしく、同じ条件で作っているはずなのに、パンの発酵が異常に早くなって、出来上がるパンの気泡の大きさもびっくりするほど大きい。新月に向かう時期より、満月に向かう時期の方がずっと発酵が早いとか科学では証明されていないようなことも起こる。酵母は生き物なんだなと思う。

そんな酵母の性質を知るためにも私にとって天然酵母を使ったパン作りは、バルサミコ酢造りに大いに貢献してくれている。もちろん美味しいパンを食べられるという美味しいオマケ付き。

そんな天然酵母起こしの動画を、今週は紹介したい。